大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)1146号 判決 1968年6月13日

上告人

中山錦二

ほか一名

右両名代理人

小野久七

上告人

中山律子

ほか二名

被上告人

(旧姓 中山)

近藤あさを

代理人

島田新平

島田芙樹

主文

原判決中、被上告人(原告)の上告人(被告)中山錦二に対する請求ならびに上告人(参加人)中山律子、上告人(参加人)中山要、上告人(参加人)中山芳子の上告人(被告)中山錦二および被上告人(原告)に対する請求に関する部分を破棄し、右部分に関する第一審判決を取り消す。

被上告人(原告)の上告人(被告)中山錦二に対する請求中、金銭支払請求に関する部分の訴を却下し、その余の請求ならびに上告人(参加人)中山律子、上告人(参加人)中山要、上告人(参加人)中山芳子の上告人(被告)中山錦二および被上告人(原告)に対する請求に関する部分を名古屋地方裁判所へ差し戻す。

上告人中山徳の上告を棄却する。

被上告人(原告)と上告人(被告)中山錦二との間における金銭支払請求に関する部分の訴訟の総費用は、各審を通じて、被上告人(原告)の負担とし、上告人中山徳の上告費用は、同上告人の負担とする。

理由

上告人中山錦二、同中山徳代理人小野久七の上告理由一について。

原判決挙示の証拠によると、本件土地は、昭和二二年二月二〇日頃上告人錦二が被上告人のため代金を支払つて水野録治郎から買い与えて、被上告人は、その後、同二五年三月二七日にその所有権移転登記を受けたこと、また本件建物(第一審判決添付第二目録記載の建物をさす。以下本件建物とのみいう)は、上告人錦二が被上告人のため資金を支出してやり、被上告人がこれにより同二二年九月一六日建築を完成し、同二五年二月二日にその保存登記をしたものであつて、結局、本件土地および本件建物はともに被上告人の所有に属する旨の原判決の認定判断は、正当として是認することができる(所論の被上告人に対し交付した金一〇万円についての原判決の説示も肯認することができないものではない。なお、論旨引用の判例は本件に適切でない)。原判決には、所論の違法はなく(論旨中違憲をいう部分は単に名をかりるにすぎない)、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・判断、事実の認定を非難するか、または、原審で主張しないか、もしくは認定されない事実を前提として原判決を非難するものであり、採用しがたい。

同二について

所論の点の原判決の認定した事実は、その挙示の証拠関係のもとにおいてこれを肯認することができ、右事実関係に照らせば、被上告人の本訴請求は権利の濫用といえないとした原判決の判断は是認することができる。原判決には、所論のような違法はない。

しかしながら、職権をもつて、被上告人から上告人錦二に対する請求ならびに上告人律子、同要、同芳子(参加人ら。以下単に参加人らという)の上告人錦二および被上告人に対する当事者参加の申出による請求の適否について案ずるに、本件訴状の記載および当審における職権調査の結果によれば、上告人錦二は昭和三二年一一月一二日名古屋地方裁判所において破産宣言を受け、右破産宣告は確定していることが認められる。

そして、被上告人の上告人錦二に対する本訴請求によれば、本件土地は被上告人の所有であるところ、上告人錦二は該地上に本件(イ)、(ロ)建物(第一審判決添付図面(イ)、(ロ)の建物。以下本件(イ)、(ロ)係争建物という)を所有し、また右地上に植物その他一切の物件(以下単に本件係争物件という)を上告人徳と共同で所有する旨主張し、被上告人は、本件土地の所有権にもとづいて、本件(イ)、(ロ)係争建物を収去し、かつ、上告人徳と共同して本件係争物件を撤去して本件土地を明け渡すこと(以下この部分のみの請求を本件不動産請求という)ならびに同上告人と連帯して昭和二四年一〇月一九日から本件土地の明渡ずみまで月四、一五六円の割合による賃料相当損害金の支払(以下この部分のみの請求を本件金銭支払請求という)を請求しているのであり、また参加人らの当事者参加による請求によれば、参加人らは、昭和二四年一一月上告人錦二と被上告人との間に成立した合意にもとづき、本件土地、本件建物の共有持分権を取得した旨主張し、これにもとづいて、上告人錦二および被上告人に対して本件土地、本件建物について共有持分権を有することの確認、被上告人に対し本件土地、本件建物についての共有持分権の移転登記手続、上告人錦二に対し本件建物退去明渡を、それぞれ請求しているのであり、また上告人錦二は、被上告人の主張に対し、本件土地については昭和二二年二月頃、本件建物については同年九月頃、いずれも自己が所有権を取得した旨を主張して争い、参加人らの主張に対してはこれを認めていることは、第一・二審判決および一件記録により明らかである。

ところで、破産宣告の時に破産者が有する一切の財産は破産宣告により破産財団に属し(破産法六条)、その管理および処分をする権利は破産者にはなく、破産管財人に専属することは、法の明定するところであるが(同法七条)、破産者が破産宣告後取得した新財産は破産財団に属しないのであるから、破産者の所有に属するものとしてその財産に関する訴訟が、破産者を相手方として提起された場合には、その訴訟の対象となつている財産がいつ破産者の所有となつたかを明確にして、その財産が破産財団に属するかどうかを明らかにしたうえで、その財産に関する訴訟について、破産者が当事者となる適格を有するかどうかを判断すべきである。

しかるに、本件不動産請求においては、第一審および第二審は、本件(イ)、(ロ)の建物および本件係争物件が上告人錦二に帰属するに至つた時期を確定することをせず、漫然、破産者たる同上告人を相手方とする本件不動産請求が適法であることを前提としたうえで、その請求の当否について判断したのは違法である。

つぎに、本件金銭支払請求の適否について検討するに、まず、昭和二四年一〇月一九日から上告人錦二に対する破産宣告の日である同三二年一一月一二日までの本件土地の不法占有にもとづく所有権侵害による損害金債権は、破産法一五条所定の破産債権にあたり、その行使は、破産手続によることを必要とし(同法一六条)、同法二二八条により、破産債権者としていわゆる破産債権届出の方法によつてのみ債権の行使をすることが許されるのである(なお、同法二二九条以下参照)から、この部分の本件金銭支払請求の訴訟の提起は、他の点について検討を加えるまでもなく、この点においてすでに違法として、訴を却下すべきものである。

つぎに、破産宣告後の昭和三二年一一月一三日以降の本件土地の不法占有にもとづく所有権侵害による損害金債権について検討するに、少なくとも本件のような土地上に物件を所有して占有することにともなう損害金債権は、破産法四七条四号所定の財団債権に該当すると解すべきである。けだし、破産宣告によりその物件の所有者たる上告人錦二においてその財産管理処分権を失ない、その権利が破産管財人に専属する以上、右物件を所有して占有するために生ずる損害金債権は、破産管財人の管理処分権にもとづいてする行為を原因として生ずるものと解するのが相当だからである。したがつて、破産宣告後の損害金債権については、破産法四九条により、破産手続によらないで、これを請求することはできるが、その請求訴訟は破産財団に関する訴訟となるから、破産管財人を相手方として訴を提起すべきであつて(同法一六二条)、破産者を相手方として提起した本件訴訟は、当事者をあやまつたものとして、不適法として却下すべきである。

したがつて、本件金銭支払請求に関する訴訟は、上告人錦二に対する関係では、すべて不適法であつて、これを却下すべきであるのに、これを看過して本案の請求の当否について判断を下した第一審および第二審の判決は破棄・取消を免れない。

以上のように、被上告人から上告人錦二に対する本訴請求に関する第一審判決および第二審判決は、いずれも違法であつて、これを破棄・取消をすべきところ、右請求中、金銭支払請求に関する部分については、前記のように不適法であるから、これを却下することとし、不動産請求に関する部分については、本件(イ)、(ロ)係争建物の所有権および本件係争物件の共有持分の取得時期を明確にさせるため、第一審裁判所へ差戻すのを相当と認める。そして、参加人らの上告人錦二および被上告人に対する当事者参加による請求については、民訴法七一条、六二条により、被上告人から上告人錦二に対する本件不動産請求とともに合一的に確定させる必要があるから、右請求に関する部分の第一審判決および第二審判決も破棄・取消を免れず、第一審裁判所へ差し戻すべきである。

よつて原判決中、被上告人の上告人錦二に対する請求ならびに参加人らの上告人錦二および被上告人に対する請求に関する部分を破棄し、右部分に関する第一審判決を取り消し、そのうち、被上告人から上告人錦二に対する金銭支払請求に関する部分の訴を却下し、その余の本件(イ)、(ロ)係争建物を収去しかつ本件係争物件を撤去して本件土地の明渡を求める請求ならびに参加人らの上告人錦二および被上告人に対する請求に関する部分を名古屋地方裁判所へ差し戻すが、上告人中山徳の上告はこれを失当として棄却することとし、訴訟費用中、被上告人から上告人錦二に対する金銭支払請求に関する部分の総費用は被上告人に、上告人中山徳の上告費用は同上告人に各負担させることとし、民訴訟三九六条、三八四条、四〇七条、三八六条、三八九条、四〇八条、九五条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)

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